大判例

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東京高等裁判所 平成元年(う)819号 判決

本籍

東京都板橋区蓮沼町八一番地

住居

同都同区板橋町一丁目四九番三号 ライオンズマンション八〇一号

歯科医院事務員

松窪幸司

昭和二二年一月一二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成元年六月九日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から控訴の申立があったので、当裁判所は、検察官豊嶋秀直出席の上審理をし、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人川上三郎名義の控訴趣意書及び弁護人森保彦、同森田倩弘連名の「控訴趣意書(補充)」と題する書面に記載されたとおりであるから、これらを引用する。

所論は、要するに、原判決の量刑は重過ぎて不当であるから、これを破棄し、被告人に対し懲役刑の執行を猶予されたい、というのである。

そこで、原審記録を調査し、当審における事実取調べの結果を加えて検討すると、本件は、東京都内で貸金業を営んでいた被告人が、自己の所得税を免れようと企て、収入の一部を除外し、仮名の預金を設定するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五八年から同六〇年までの三年分の実際所得金額が合計五億六一五〇万〇八二〇円であったのに、同五八年、同五九年の二年分については、全く確定申告書を提出せず、同六〇年分については、所得金額が二八八万九〇〇〇円で、これに対する所得税が七万六七〇〇円である旨虚偽の確定申告書を提出して、各納期を徒過させ、合計三億五四二五万六八〇〇円の所得税を免れた、という事案である。右のとおり、逋脱税額が極めて多額である上、二年分は無申告であり、昭和六〇年分については、被告人が、子供を保育園に入れるには納税証明書が必要であると聞かされ、また、無申告が続くと税務署からにらまれる恐れがあるのでこれを回避したいと考えたことから、妻に指示して、被告人に芸能プロダクションの社員としての所得があった旨偽りの申告書を提出させたというものであって、申告金額も実際所得額の一パーセントに満たず、被告人には納税の意思がなかったものと解するほかなく、その態度は厳しく非難されなければならないこと、被告人は、貸金業の当初から偽名を使用し、従業員にも偽名を使わせてその名義の事務所名で支店を開設した上、これらの事務所、支店を転々移動させて高金利による貸金業の刑責追及を避けると共に所得の秘匿を図ったものであって、所論にもかかわらず、犯行の態様は悪質であること、その動機は事業の拡大と家族の将来の生活の安定のための資金の蓄積というものであるが、特別に酌むべきものとは認められないこと等の諸点に鑑みると、被告人の刑責は重いというべきである。

してみると、被告人は、事犯の発覚後、率直に自己の非を認めて修正申告した上、逋脱した本税の納付に努め、原判決宣告の時点で、その約八〇パーセントに相当する二億八一五五万余円を納付したほか、原判決後は、一段と反省の態度を示し、合計九〇万円を納めた上、知人である関磯次歯科医師の支援を受けて、鋭意逋脱本税完納のための計画を立て、その実現に努力する旨約束していること、原審公判継続中に金融業をやめ、現在では、関歯科医師の下で事務員として稼働していること、本件が新聞等に報道され、相当の社会的制裁を受けたとみられること、一〇年以上前の罰金刑(二件)のほかには前科がないこと、その他、両親が被爆者であり、被告人自身も原爆症に起因すると思われる疾患に悩まされてきたものであること、被告人の服役が老父や妻子らに及ぼす悪影響等の諸点を被告人のため十分に考慮しても、本件が懲役刑の執行を猶予すべき事案とは思料されず、被告人を懲役一年六月及び罰金八〇〇〇万円に処した原判決の量刑は、まことにやむを得ないところであって、これが重過ぎて不当であるとまでは思料されない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用は同法一八一条一項本文により被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 寺澤榮 裁判官 堀内信明 裁判官 新田誠志)

平成元年(う)第八一九号

○ 控訴趣意書

被告人 松窪幸司

右の者に対する所得税法違反被告事件について、平成元年六月九日東京地方裁判所刑事第二五部が言渡した判決に対し、当弁護人は左記のとおり控訴の趣意を申し述べます。

平成元年九月二九日

右弁護人 川上三郎

東京高等裁判所第一刑事部 御中

一、原判決は被告人の本件犯行について、懲役一年六月罰金八、〇〇〇万円の刑をもって処断したが、右刑の量定は次に述べる諸情状に照らし重きに失するものと思料いたしますので、原判決を破棄のうえ、改めて御寛大なる判決を賜わり度く上申いたします。

二、本件は、昭和五八年から三年間にわたる脱税事犯で、脱税額も高額であることは認めるが、その動機は遊興費等捻出の為ではなかった。

原審において被告人も述べているように、被告人は、母の被爆に伴う原爆症に起因すると思われる身体的なハンディキャップを背負っており、自分に万一のことがあった場合妻子等家族の将来のことを考えて所得を秘匿したものであって、社会福祉制度の完備していない現状において、本件被告人のような場合においては酌量すべきものであり原判決はさほど酌むべき事情ではないと断じているが、これはいささか酷であると思料する。

三、本件において脱税の具体的方法となっているものは、仮名口座による客の小切手の取立て、仮名口座による資金の留保であるが、これは只単に被告人の所得の秘匿のみを目的としたものではなかった。

被告人がこれまで経験してきた金融業の実態からみて、実名を用いると客の逆恨みや地元のヤクザの営業妨害等が予想されそれらを回避するために仮名を用いたものである。

又このように仮名を用いることによって、客の資金繰りの苦しさを取引銀行に知られない即ち金融業者の取立てということがわからないことを求めている要望にも合致することから被告人は仮名を使用して貸金営業をしてきたものである。

さらにその延長として仮名による預金がなされていたものである。

四、被告人は貸金営業の実態を正確に帳簿類に記載しており、国税局、検察庁の調べに際しても営業の方法について詳細にわたり供述し営業の全貌を明らかにしている。

計画的に脱税を意図していたならばかかる帳簿書類を完備させている筈はなく計画的でなかったことを窺わせるものである。

五、被告人が、貸金業を営業するについて、高金利であったことは否定しないが、これは客が一般大衆ではなくて銀行に当座預金をもっている事業経営者が多く、小切手による融資という方法をとっておったことから、貸金の取立てについては、小切手の不渡りを出した客は、それ以上の追求をしないというものであったので、貸倒れが相当な高率にのぼっており、その実態からすれば総体的な面から必ずしも高金利による収入とは言い難いものである。

六、被告人は、本件ほ脱による税額の八〇パーセントに当る税金を納付している。

その原資となったものは、被告人が資金を貸付けていた東京信星実業株式会社の解散による貸付金の回収、右会社からの借入金、被告人所有の不動産を担保としての借入金、被告人の子等の預金の解約等であり被告人の所有している全財産をつぎ込み丸裸の状態となって納税したものであって、被告人の納税に対する誠意は評価されるべきであると考える。

さらに未納の税額についても可能な限り納税努力をすることを約しており、国税当局においてもこれら誠意について理解を示しているところでもあります。

七、被告人は、経営していた東京信星実業株式会社を解散、貸金業を廃業し、一切の貸金営業から手を引いて、今後法律触れるような行為をしないことを決意して病院の職員として再出発しており再犯の虞れは全くありません。

被告人には、これまで罰金刑の前科はありましたが、公判請求を受けたのは本件がはじめてであって、真面目な社会生活を続けてきたものであります。

本件は、新聞紙上でも発表され、それによって十分な社会的制裁も受けております。

八、何卒以上の諸事情を十分御勘案下されまして、反省しております被告人でありますので、原判決を破棄し、懲役刑については執行猶予を付した御判決を賜りますよう上申する次第です。

以上

平成元年(う)第八一九号

○ 控訴趣意書(補充)

被告人 松窪幸司

右の者に対する所得税法違反控訴事件につき、平成元年六月九日東京地方裁判所刑事第二五部が言渡した判決に対し、先に平成元年九月二九日付にて当時の弁護人川上三郎弁護士の提出した控訴趣意書について当弁護人は記録を精査し、且つ受任後の弁護活動を総合してここに右控訴趣意書につき、左記のとおり補充し陳述するものである。

平成二年二月二二日

弁護人 森保彦

同 森田倩弘

東京高等裁判所第一刑事部 御中

一、総論

納税は、日本国民の義務であります。

本件所得税法違反被告事件によって、被告人に納税に対する自覚がみられるようになったか。納税に対する積極的努力が認められるか。

この被告人の納税に対する自覚と積極的な納税努力が、本件被告人を救えるかどうかを決定する分水嶺であります。

弁護人は、本件公訴事実を争うものではなく、原審判決も丁寧な訴訟指揮のもとに公正な判断がなされたものと思料いたします。

しかし、弁護人は本件事件によって、被告人に、十分、納税に対する自覚が生まれ、積極的な納税努力がなされたものと確信いたしております。

御庁におかれましては、左記の情状を御勘案のうえ、被告人に善良な社会の一市民として復帰する機会をお与えていただき、心ある執行猶予の判決を賜りたく、お願いいたすものであります。

1. 被告人が納税努力をしていること。

とくに原審判決言渡後も、被告人ができる限りの納税努力をしていることは後述のとおりであります。

2. 被告人の反省と再犯可能性のないこと。

3. 更生が可能であること。

4. その他の情状

計画犯罪性がなかったこと。

悪質でなかったこと。

帳簿の提出など捜査への協力があったこと。

被告人を援助する友人、家族のあること。

被告人に同情すべき事情のあったこと。

二、各論

1. 被告人の納税努力について

(原審判決前)

被告人の滞納本税額の総額は金三億五四二五六八〇〇円であるところ、被告人は自主的に左記内容の納税を実行してきました。

〈1〉 昭和六二年 三月一七日 金一億五〇〇〇二〇二〇円也 (弁第四三、四四、四五号証)

〈2〉 昭和六三年 三月七日 金三〇〇万円也 (弁第 六号証)

〈3〉 同年 三月二六日 金 六〇万円也 (弁第 五号証)

〈4〉 同年 三月二九日 金 七三六五四〇円也 (弁第三九号証)

〈5〉 同年 四月二六日 金 六〇万円也 (弁第 八号証)

〈6〉 同年 五月二七日 金 六〇万円也 (弁第一一号証)

〈7〉 同年 六月二五日 金 六〇万円也 (弁第一三号証)

〈8〉 同年 七月二六日 金 六〇万円也 (弁第一五号証)

〈9〉 同年 八月二六日 金 六〇万円也 (弁第一六号証)

〈10〉 同年 九月二四日 金 六〇万円也 (弁第一八号証)

〈11〉 同年 一〇月二六日 金 六〇万円也 (弁第二〇号証)

〈12〉 同年 一一月二六日 金 六〇万円也 (弁第二二号証)

〈13〉 同年 一二月二四日 金 六〇万円也 (弁第二五号証)

〈14〉 平成元年 一月二六日  金六〇万円也 (弁第三〇号証)

〈15〉 同年 二月二七日 金 六〇万円也 (弁第三五号証)

〈16〉 同年 三月二七日 金 六〇万円也 (弁第三八号証)

〈17〉 同年 五月一〇日 金一億二〇〇一七〇〇〇円也 (弁第八一号証)

合計 金二億八一五五五五六〇円也

右納税につきましては、〈1〉貸金業廃止にともなう整理金などの合計金二億二六〇〇万円を基礎として、〈2〉被告人所有のマンション(高島平第一サンパワー)を担保に王子信用金庫より借入れた金二〇〇〇万円、〈3〉鶴見房枝からの借入金一二〇〇万円、〈4〉鶴見房枝の兄の預金担保による借入金九五〇万円、〈5〉被告人の父親からの借入金二八〇万円、〈6〉被告人の子供名義の郵便貯金の解約金六八〇万円などがあてられました。

被告人は、原審当時において可能であったすべての自己資金を、あたう限り納税の為にあてたばかりか、父親のわずかな手持ち金、子供達の為の将来の教育資金までつかってしまいました。

被告人は、生活の基盤であった貸金業を整理し、すべて納税にあてることで再出発を決意したのであります。

丸裸になり、肉親や子供達のお金まで納税にあてた被告人には、国民の義務である納税に対する自覚と、積極的納税の努力が、十分みられると弁護人は思料するものであります。

その結果、本件にて起訴されたほ脱本税の約八〇パーセントに相当する金二億八一五五万三五四〇円の納付がなされました。

(原審判決後)

(1) 被告人は、本件判決(平成元年六月九日宣告)で実刑に処せられたことによりそれまで勤務していた横浜病院を同年七月三一日をもって退職せざるをえなくなりました。

被告人は、先行きの不安を感ずるなかにありながら、現在一緒に生活している内縁の妻鶴見房枝の励ましと協力もあって、少し余裕のできた平成元年一一月から再度納税本税の支払いをはじめておるのであります。

〈1〉 平成元年 一一月七日 金 三〇万円也 (後出弁第一〇〇号証)

〈2〉 平成元年 一二月七日 金 三〇万円也 (後出弁第一〇一号証)

〈3〉 平成二年 一月九日 金 三〇万円也 (後出弁第一〇二号証)

(2) 被告人が、所得税法違反被告事件で起訴され、実刑判決をうけたことは、被告人の友人達の間に知れわたりました。

このことで、被告人から離れていった友人もいれば、心配してくれる友人もおりました。

現在埼玉県新座市にて「関歯科医院」を経営している関磯次医師は、昭和四六年か同四七年頃、歯科医として一日も早く独立しようとがんばっていたとき、被告人より金銭的援助をうけたことがあったことから、苦境に立っている被告人の助けになればと考え、弁護人に事件の調査を依頼するとともに積極的に協力して当時の恩返しをしたいと申し出てきたのであります。

弁護人が関医師に、本件においては被告人の納税に対する積極的努力がなければ情状を裁判所に訴えることすらできない事件であるとはなしたところ、現在、自分には多少の余裕があるので、被告人を関歯科医院で事務員兼助手として働いてもらうことを条件に滞納税金の支払いには協力したいと申してきたのであります。

そこで、弁護人は、被告人、関医師とともに、平成二年二月二日、東京国税局におもむき、徴収部大蔵事務官の伊藤正美と面会し、弁護人が被告人から聞いていたほ脱本税総額金三億五四二五万六八〇〇円のうち、金二億八二四五万三五四〇円(内金九〇万円は原審判決後被告人が支払った金額)が納付され残滞納本税は金七一八〇三二六〇円となっているのかどうか確認しましたところ、現在残っている滞納本税は昭和五九年度分金三四六三三六〇円、同昭和六〇年度分金六八二八万四一〇〇円の合計金七一七四万七四六〇円であるとの回答がえられたのであります。

関医師は、毎月最低金五〇万円を約束手形をもって被告人の滞納税金の支払いにあて、自分は、被告人の面倒をみて事務員兼医師助手として雇い、毎月二五万円の給料の中から金一〇万円程度の返済をつづけてもらうつもりであることを伊藤事務官に伝えましたところ、伊藤事務官はこれをうけいれて、早速被告人と関医師がよく話し合って返済計画案と約束手形を持参してほしいと申されたのであります。

そこで、被告人と関医師は、平成二年二月一五日に再度弁護人とともに東京国税局におもむき延滞本税についての支払計画表を添付した同日付「上申書」を提出するとともに、約束手形一〇枚(額面金五〇万円、合計金五〇〇万円)を納付し、東京国税局との約束を履行したのであります(後出、弁第一〇三号証・同弁第一〇四号証)。

別添延滞本税の支払計画表によりますと平成三年度には、関医師の金六〇〇万円の支払いのほか、被告人が鈴木輝也に賃貸している前記マンション高島平第一サンパワーの売却による代金(同マンションは、金三七〇〇万円程度で売却できる見込みであり、王子信用金庫から前記納税の為に借入れた金二〇〇〇万円および利息、売却手数料などを差し引いた残金一七〇〇万円)も納付金にあてられております。

同マンションの売却につきましては、貸借人である鈴木輝也に被告人の事情をはなして協力を求めたところ、平成二年一二月末日限り、右マンションの明渡が約束され、同人の了解のもと、即決和解の申立がなされております(豊島簡易裁判所平成二年(イ)第二三号事件、後出、弁第一〇五号証・同弁第一〇六号証・同弁第一〇七号証)。

被告人は、原審判決後も、納税の義務を自覚し、よき援助者の協力もあって、あたう限りの納税努力をしてきているのであります。

被告人が実刑をうけなければならないことになりますと、ようやく目途の立った滞納本税の納付計画もだめになります。

被告人は、関医師の厚意に心から感謝するとともに、関歯科医院にて真面目に働きつつ、東京国税局との約束を守ってゆきたいのであります。

被告人の関係者全員、被告人を助けたいのであります。

2. 被告人の反省と再犯可能性のないこと

被告人には、過去に風俗営業等取締法違反と競馬法違反による罰金前科があるほか、他に前科前歴がありません。

しかし被告人は、今まで、自分が被爆者の両親から生まれたということを、知らず知らずのうちに自分の過ちのいいわけにしてきた傾向があります。原爆症に起因する身体的、精神的ハンデキャップを理由にすれば、多少のことは許るされるということがいつも被告人の頭の中にあったのであります。

確かに、健康な身体で恵まれた生活を送る人とくらべると、被告人の苦しみ、不安、恐怖は大変なものかもしれません。

しかし、だからといって、遵法精神が緩慢になってしまってはなりません。

自分に与えられた環境の中で、立派な社会人として法規を守り生活してこそ、被告人が面倒をみてきた両親をはじめその世話をうけた友人、知人も眞に感謝するはずであって、よごれたお金など、だれ一人として喜びません。

被爆者の子供が苦しいのであれば、被爆者本人である両親はもっと苦しいはずであります。現に、今回の事件によって、年老いた父親は息子のことを思い死ぬ以上の苦しみを味あっております(後出、弁第一〇八号証)。

被告人は、原審判決前まで、自分が不幸な生いたちであることから今回のことも許されると思っておりました。

ところが、判決の重大性に直面し、逆に今までの自分をよくみつめることができました。

人生に甘えていた自分にはじめて気がつきました。

弁護人は、被告人に第一歩からやり直そうとする決意をみました。

もう再犯の可能性はありません。

3. 更生が可能であること

被告人は、関歯科医院において、事務員兼助手として働くことができるようになり、鶴見房枝も被告人の更生に協力することを誓っております。

被告人自身も、万一自分の身に将来何かあって死亡した場合でも東京国税局や関医師や子供達に迷惑をかけないよう、死亡、高度障害のときに金五〇〇〇万円(これが、現在の被告人にかけられる生命保険の限度と思料されます)が保障される「ニッセイ終身保険」(後出、弁第一〇九号証、同弁第一一〇号証)に入ったのであります。

右保険金の受取人である子供達は、その母親である松窪良子を含めて、これを納税のために使用することを希望する旨の確約書を関医師あて差し出しているのであります(後出、弁第一一一号証)。

被告人の決意、子供達の父を思う気持、関医師の配慮によって、被告人の更生は可能であります。

4. その他の情状

本件事件において計画犯罪性のなかったこと、暴力団と結びつくなど世上よくみる悪質なものではなかったこと、帳簿類をかくさず積極的に査察、捜査機関に素直に協力していること、被告人に同情すべき事情のあったことなどにつきましては、すでに提出されている弁論要旨、控訴趣意書記載のとおりであります。

少し、付言させていただきますと、被告人は昭和六一年六月から約二年半にもわたって東京国税局と検察庁よりお取調べをうけたばかりか、実名にて脱税事件が報道(昭和六三年一二月一〇日付読売新聞朝刊、NHKのテレビ報映)され、社会的にも制裁をうけております(後出、弁一一二号証)。

さらに、関医師という支援者もあらわれ、子供達とくに、長女の甲司子は、父親である被告人の為に、普通高校進学、大学受験をあきらめ「村田女子商業高等学校に入学し、経理関係の仕事をし私自身も父の力になり、税金を一日も早くお支払い出来るようがんばりたいのです。又妹の志津子も来春の卒業と同時に高等学校へはいかず美容師をめざし早く父に協力できるようにと毎日言っています」とのお願い書を弁護人から裁判所に提出してほしいと送ってまいりました(後出、弁第一一三号証)。

この「お願い書」と題した手紙の中で甲司子は最後に次のように述べております。

「父は体も弱いし労働もできません。今のような歯医者の手伝いなどが一番いいと思います。

これから私達兄弟も協力して一日も早く税金を払い、父を楽にさせてあげたいのです。

私はこれから精一杯がんばりますので裁判長様どうか父を刑務所などには行かせないで下さい。

これは私達兄弟の最後のお願いです。

裁判長様とは会ったことはありませんが、とても立派な方だと思っています。

どうか父を助けて下さい。

お願いします。」

どうか、甲司子のお願いをかなえて下さい。

経歴書

関磯次

住所 〒一七七 練馬区大泉学園町七-二三-二三

診療所名 関歯科医院

〒三五二 新座市新座三-三-一四-一〇二

TEL〇四八四-七七-五〇六八

出身校 日本歯科大学 昭和四二年卒

履歴

昭和四五年入会

昭和五二年 四月一日~昭和五六年三月三一日 郡市役員(総務部)

昭和五三年 四月一日~昭和五八年三月三一日 県歯広報部(常任委員)

昭和五四年 四月一日~昭和五六年三月三一日 県歯代議員(予備代議員)

昭和五八年 四月一日 現在に至る 県歯代議員(予備代議員)

昭和五八年 四月一日 現在に至る 郡市役員(支部長)

昭和五八年 四月一日 現在に至る 国保運営協議会委員

昭和五八年 四月一日 現在に至る 休日歯科応急診療所運営委員

昭和五九年 七月一日 現在に至る 朝霞地区歯科医師政治連名監事

昭和五八年 四月一日 新座市長表彰受ける

平成元年一一月一日 新座市長表彰受ける(国保運営委員として)

校医

昭和四五年四月一日 現在に至る 私立第二新座幼稚園

昭和四八年四月一日 現在に至る 新座市立大正保育園

昭和五〇年四月一日 現在に至る 新座市立池田小学校

昭和五二年四月一日 現在に至る 新座市立第四中学校

昭和五六年四月一日 現在に至る 私立山びこ保育園

趣味 ゴルフ

以上

延滞本税の支払計画表

〈省略〉

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